Skip to content

飲食巨大資本による「飲食群雄割拠の戦国時代」を考える

food-chains-warring-states-era

夜、なんとなくスマホを開き、雑多な情報をぼんやり眺めていた時のことです。ふと、九州のソウルフードとして名高い「資さんうどん」の新規店舗オープンのニュースが目に留まりました。なぜ、最近になって関東近郊にもこれほど続々と出店しているのだろう?と不思議に思って調べてみると、なんとファミレス大手のすかいらーくホールディングスに買収されていた(それも240億円超!)という事実に突き当たりました。

さらに気になってネットの情報を手繰っていくと、ひと昔前に私が夢中で行列に並んだラーメン界の雄「せたがや」が、実は吉野家ホールディングスの傘下に入っていたり、「つけめんTETSU」がクリエイト・レストランツHDのグループになっていたりと、外食業界が少し前から凄まじい勢いで「M&A(企業の合併・買収)ラッシュ」に沸いていたことを知ったのです。

失敗しない安心感、しかし一抹の寂しさ

全国どこへ行っても、見覚えのある大手チェーンの看板が出迎えてくれる現代。そこに入れば、完璧にマニュアル化されたスタッフが、いつどこで食べても絶対に失敗しない安定の味をサッと出してくれます。

本当にありがたいシステムですし、この「失敗しない安心感」に私もこれまで何度も救われてきました。マニュアル通りの完璧な笑顔と、「いらっしゃいませ!」と迎えられ、タブレットのメニューのラインナップをながめると、実家の母親よりも私の胃袋の好みを熟知しているのではないかと錯覚してしまうほどです。私の母などは、帰省するたびに「あんた、今何が好きだったっけ?」と聞いてきますから、大企業のデータ管理能力には本当に頭が下がります。

ですが、その便利なシステムに胃袋を満たしてもらった帰り道、私たちの心には、なぜか言葉にできない「一抹の寂しさ」が、ほんのりと残ってしまうことがあります。

近年の外食産業で激化するM&Aの裏側にある「経営的なロジック」を紐解きつつ、私たちがその便利さと引き換えに失いつつあるものについて、少し立ち止まって考えてみたいと思います。

3年で7割が消える? 数字で見る飲食店の厳しい現実

そもそも、なぜ今これほどまでに外食産業のM&Aが加速しているのでしょうか。その背景には、個人経営や中小規模の飲食店を取り巻く、想像以上に過酷なサバイバル環境があります。

実は、飲食業界は「多産多死(新しく生まれるが、潰れるのも早い)」の構造が顕著です。一般的な統計によると、新しくオープンした飲食店の生存率は以下のような数字になっています。

  • 1年以内の閉店:約3割(30%)
  • 3年以内の閉店:約7割(70%)
  • 10年後に残る店:わずか約1割(10%以下)

「美味しい料理さえ出していれば、いつかお客さんは来てくれる」という職人気質のこだわりだけでは、開業後すぐにのしかかる家賃や人件費、そして初期投資の回収という現実の壁を乗り越えられないケースが後を絶ちません。

さらに近年は、食材費の大幅な高騰や、いわゆる「物流2024年問題」に端を発する配送コストの上昇、そして何よりも「深刻な後継者不足」が追い打ちをかけています。どんなに地域で愛され、行列ができる名店であっても、この荒波を単独で乗り越え、次の世代へバトンを繋ぐのは至難の業なのです。

大手グループの傘下に入る(チェーン化する)という選択は、決して強欲な乗っ取り劇などではなく、こうした厳しい現実から店と従業員、そして「味のDNA」を未来へ残すための、必死の防衛策だと言えます。

チェーン化のメリットとデメリット

巨大資本の手を借りることで、店舗の経営はどのように変わるのでしょうか。そのメリットとデメリットを整理してみます。

メリット:圧倒的な「スケールメリット」と安定

最大の強みは、大手が持つ強力な仕入れルートと物流網を活用できる点です。原材料が高騰しても、グループ全体で一括購入することでコストを抑え、価格や品質を維持できます。また、マニュアル化やデジタル化が進むことで、人手不足の中でも安定したサービスを全国へスピーディーに展開できるようになります。

デメリット:薄れゆく「個性」と「街の匂い」

一方で、誰が調理しても同じ品質を保てるようにシステム化されるため、良くも悪くも「どこで食べても同じ味」になります。また、効率重視のクリーンな内装に統一されることで、その店が本来持っていた独特の泥臭さや、ローカルな空気感が消えてしまう傾向にあります。

「飲食群雄割拠の戦国時代」を動かす5大勢力

ここで、現在の外食戦国時代において、地方の名店や競合を次々とグループに迎え入れながら「巨大な連邦国家」を築き上げている、主要な5つの巨大資本を見ていきましょう。

純粋にM&A(買収)を成長戦略の核とし、業界の売上高トップクラスに君臨する「真の5強」の顔ぶれです。普段私たちが何気なくつかっているあの店舗も実は、あのグループだった!なんてこともあります。

ゼンショーホールディングス

  • 売上高: 約1兆1,360億円
  • 主なブランド: すき家、なか卯、ココス、はま寿司、ロッテリア(ゼッテリア) など
  • グループの特徴: 外食業界で他を圧倒する売上1兆円超えの絶対王者です。原材料の調達から製造、物流、店舗での販売までをすべて自社グループ内で完結させる独自の仕組みを持っています。近年買収したロッテリアを、自社の仕入れ力を活かした「ゼッテリア」へとスピーディーに再編していく動きなど、圧倒的なスケールメリットを活かしたダイナミックな戦略が特徴です。

すかいらーくホールディングス

  • 売上高: 約4,000億円規模
  • 主なブランド: ガスト、バーミヤン、しゃぶ葉、むさしの森珈琲、資さんうどん など
  • グループの特徴: 日本のファミリーレストランのパイオニアであり、全国に張り巡らされた強力な物流網が最大の武器です。売上高でも常にトップクラスに君臨していますが、近年は北九州のソウルフードとして絶大な人気を誇る「資さんうどん」を買収。その圧倒的な資本力とインフラを使って、地方の名店を一気に全国区へと押し上げる戦略を加速させています。

FOOD & LIFE COMPANIES

  • 売上高: 約3,610億円
  • 主なブランド: スシロー、京樽、みさき、吉野家HDから買収した「浪花古市庵」など
  • グループの特徴: 回転寿司の覇者「スシロー」を筆頭に、近年は積極的なM&Aで魚介・寿司ジャンルの覇権を確実に握りにいっている大資本です。かつては職人の技術の結晶だった「寿司」という文化を、最も高度にマニュアル化・デジタル化(皿のデータ管理など)した、効率化ロジックの象徴とも言える存在です。

コロワイド

  • 売上高: 約2,400億円規模(直近業績ベース)
  • 主なブランド: 牛角、温野菜、大戸屋ごはん処、かっぱ寿司、甘太郎 など
  • グループの特徴: 居酒屋からスタートし、M&Aを繰り返すことで巨大総合外食グループへと上り詰めた、まさに武闘派の大資本です。定食チェーンの「大戸屋」を敵対的買収によって傘下に収めたことでも大きな話題になりました。自社で持つ大規模な食材加工工場(セントラルキッチン)をフル活用した、徹底的なコスト削減と効率化が強みです。

吉野家ホールディングス

  • 売上高: 約1,800億円規模(直近業績ベース)
  • 主なブランド: 吉野家、はなまるうどん、ラーメン「せたがや」 など
  • グループの特徴: 売上高の規模では上位4社に一歩譲るものの、私たちが最も「エモーションの摩擦」を感じる仕掛け人です。誰もが知る牛丼の老舗ですが、実はうどんやラーメンといった「麺類」のM&Aにも深くコミットしています。長年培ってきたチェーン運用のノウハウをベースにしながら、「せたがや」のように職人技や独自のこだわりが光る有名ブランドをグループに迎え入れ、その味をより多くの人に届ける戦略をとっています。

他にも、「丸亀製麺」のトリドールホールディングスや、「焼肉きんぐ」「丸源ラーメン」の物語コーポレーション、全国の地名を冠した食堂を展開するフジオフードグループなどなど、日本の飲食業界はまさに一寸先も見通せない群雄割拠の戦国時代に突入しています。

システム化と引き換えに、私たちが失うもの

物流が安定し、経営が健全化し、全国どこでもあの味が食べられるようになる。ロジックとしては100点満点、どこにも隙はありません。

しかし、調理や接客が徹底的に「マニュアル化」されていくプロセスの中で、何かが少しずつ削ぎ落とされ、消えていくのもまた事実です。

それは裏を返せば、私たちがかつて愛した「その店、その街でしか出会えない、粗削りだけれど奇跡のように美味い味」との遭遇確率を、自ら手放しているということでもあります。

大手資本のクリーンな内装、徹底的に効率化されたピカピカの厨房からは、こうした「土着の匂い」が消えていきます。それはビジネスの観点からは間違いなく「正しい進化」なのですが、私たちの記憶と結びついた文化の灯火が、またひとつ消えていくような寂しさを禁じ得ないのです。

私たちはこれから、どう食と向き合うべきか

巨大資本によるM&Aは、3年で7割が消えるという過酷な飲食業界において、私たちが愛する「食の文化」を後世に残すための、最も合理的で愛のある救済策なのかもしれません。資本の力がなければ、あの「せたがや」のスープも「資さんうどん」の出汁も、時代の波に飲まれて消えていたかもしれないのですから。

だからこそ、私たちはチェーン化をただ寂しがるのではなく、その恩恵を大いに楽しめばいいと思います。「失敗したくない日常」や「時間がない仕事の合間」には、大企業のロジックが育んだ、完璧で安心な味に頼る。

その一方で、もしあなたの街に、あるいは旅先の片隅に、まだ巨大な波に飲まれず、不器用に、独自の「匂い」を放ちながら灯りを灯し続けている小さなお店があるならば。

どうか、その「不便な愛おしさ」を全力で面白がり、お腹いっぱい食べて、応援してあげてください。

効率化という名の正論で世界が満たされ尽くしてしまう前に、私たちが未来へ残せるエモーションは、きっと日々の私たちの「ごちそうさま」という選択の中にしかないのですから。

AO3(あおさん)/ 32mm 管理人

昭和生まれのアラフィフのええおっさん。ガジェット、キャンプ、食をテーマに、大人のこだわりを探求。実体験に基づいた、日々の生活を少しだけアップデートするヒントを発信中です。GR4の抽選販売に申し込みましたが、外れたようです。懲りずにまた次回!