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文字に溢れる街

なぜ「ドンキ」のパッケージはうるさいのか?“叫び”が正解になった時代の「デザインの敗北」と「言葉の逆襲」

最近、スマホの画面を眺めていると、指だけでなく目や心まで疲れてきませんか? お恥ずかしい話、私は40を過ぎたあたりから、情報の濁流を追うのに「老眼」という物理的な壁が立ちはだかるようになりました。スマホを少し遠ざけながら、流れてくる「驚愕!」「絶望!」「全米が泣いた!」といった過剰な煽り文句を眺めていると、正直、おじさんの心臓には少々刺激が強すぎると感じるのです。

最近、ブログを書くようになった私のような人間でも、一瞬で気を引くために言葉を尖らせる技術も理解はできます。しかし、右も左も「叫び」ばかりの現状は、果たして正解なのでしょうか。今に始まったことではなく、文字で人の気を引くというのは昔からあったものです。しかし、私たちの周りで増え続ける、この「うるさい言葉」の正体を、ある巨大チェーン店のパッケージをヒントに紐解いてみたいと思います。

私たちの周りは「叫び」で溢れている

最近、スーパーやドラッグストアの棚を眺めていて、「なんだか文章量が増えたな」と感じることはありませんか? その筆頭が、ドン・キホーテのオリジナルブランド「情熱価格」です。

パッケージの中央に鎮座する巨大な「ド」の文字。その脇を固めるのは、開発担当者の血の滲むような苦労話や、「安すぎてごめんなさい」といった、もはやポエムとも取れる長文の数々。

かつてのパッケージデザインといえば、瑞々しいシズル写真(美味しそうな料理写真)と洗練されたロゴ、そして最小限のキャッチコピーが定石でした。しかし今、市場を席巻しているのは「おしゃれ」とは程遠い、剥き出しの言葉たちです。

これは一体、デザインの「敗北」なのでしょうか? それとも、私たちのコミュニケーションの形が決定的に変わってしまった証なのでしょうか。

SNSが変えた「1秒の攻防」と「中の人の可視化」

まず無視できないのが、SNSが私たちの「情報の食べ方」を変えてしまったことです。

X(旧Twitter)やThreadsのタイムラインを想像してください。私たちは無意識のうちに、恐ろしいスピードで画面をスワイプしています。そこで指を止めるのは、洗練された静かなグラフィックではなく、「えっ、何これ?」と思わせる強烈な違和感や、感情を揺さぶる強い言葉です。

この「1秒の攻防」が、現実の売り場にも持ち込まれたのです。商品棚の前を通る一瞬の隙に、消費者の脳をハックしなければならない。そうなると、控えめなデザインは「存在しない」のと同じになってしまいます。

「中の人」の必死さが、スペックを超える SNSでは、企業が「組織」ではなく「個人(中の人)」として発信することが定着しました。ドンキのパッケージに漂う「必死さ」や「ぶっちゃけ話」は、まさにこの延長線上にあります。 「社長に怒られたけど強行突破しました」というストーリーは、客観的なスペックよりも、現代人にとって「信頼できる本音」として響くのです。私たちは今、商品そのものではなく、その背景にある「人間臭さ」を消費していると言えます。

デザインの「敗北」か、それとも「最適化」か?

ここで気になるのが、「デザインが劣化しているのではないか?」という視点です。

数年前、コンビニのコーヒーマシンのボタンが「オシャレすぎて使い方がわからず、結局テプラで『ここを押す』と貼られた」ことが「デザインの敗北」として話題になりました。 ドンキ流のパッケージは、いわば「最初からテプラをデザインの一部として組み込んだもの」です。

「認知的コスト」の削減という究極のサービス 私たち現代人は、毎日、膨大な選択肢に囲まれて脳を消耗しています。

  • おしゃれなパッケージ: 「これは何? 私に合うの?」と、一瞬考える必要がある。
  • 煽りパッケージ: 「これを選べば正解!」と、デカデカと答えが書いてある。

「煽る文章」は、消費者の「考えるエネルギー(認知的コスト)」を肩代わりしてくれているわけです。選ぶことに疲れ果てた現代人にとって、断定的な強い言葉は、不親切な自由よりも「親切な強制」として機能している。なんとも皮肉な話ですが、これが現実のようです。

パッケージは「広告媒体」へと進化した

「パッケージにお金をかけなくなったから、文字で誤魔化しているのでは?」という疑問もあるでしょう。しかし、実態は「予算の使い道」の変化にあります。

ナショナルブランド(大企業の商品)は、莫大な予算をかけてテレビCMを打ち、私たちの脳内にあらかじめブランドイメージを植え付けます。だから、店頭のパッケージは静かでも売れる。 一方で、広告を打たないプライベートブランド(PB)は、パッケージそのものを「チラシ」として活用します。自らがCMを兼ねているため、あそこまで饒舌(じょうぜつ)にならざるを得ないのです。

さらに、突っ込みどころ満載の文章は、SNSでの拡散(シェア)まで計算されています。「このパッケージ、頭おかしい(最高)」と誰かが呟いた瞬間、その商品は低コストで広報効果を最大化させるのです。

煽りの時代、その先にあるもの

文章が時代とともに変化するのは必然です。かつて万葉の時代には優雅な和歌が心を伝えましたが、今は「パッケージのデカ文字」がその役割を担っています。

現在の「煽り」ブームは、情報過多に対する一種の適応反応でしょう。しかし、この「叫び合い」がエスカレートしすぎれば、消費者はやがてその騒がしさに疲れ、再び「静寂」や「引き算の美学」を求めるようになるはずです。

もしあなたが今の「煽る文章」に違和感を感じているなら、それはあなたが「言葉による強制」よりも「自分の感覚による発見」を大切にしたいという健全なサインかもしれません。情報の波に飲まれすぎず、適度な距離感で買い物を楽しみたいものですね。

AO3(あおさん)/ 32mm 管理人

昭和生まれのアラフィフのええおっさん。ガジェット、キャンプ、食をテーマに、大人のこだわりを探求。実体験に基づいた、日々の生活を少しだけアップデートするヒントを発信中です。GR4の抽選販売に申し込みましたが、外れたようです。懲りずにまた次回!